
【脳腸相関】腸と脳の関係や幸せホルモンが健康に与える影響を解説
「おなかが痛いときは、気分が落ち着かない気がする」
「ストレスを感じるとおなかが痛むことがある」
実は、これは偶然ではありません。
例えば、脳が社長だとしたら、腸は優秀な秘書。社長が「今日は集中したい」と思っても、秘書が体調不良だったり、期限が悪かったりすると、会議もスムーズに進みません。逆に、秘書の調子が良ければ、社長の仕事もはかどります。
このように、腸と脳は相関関係にあり、様々なメカニズムでお互いに影響を及ぼしあうものです。この分野は、心身の健康維持に関する新たな研究分野として、最近の医学会でも注目を集めています。
この記事では、薬剤師監修のもと、脳腸相関とはどういうものなのか、腸内細菌や幸せホルモン・ストレスホルモンが腸や脳にどう影響しているか、健康に与える具体的な影響まで、詳しく解説します。
健康的なライフスタイルを目指すために、腸と脳のコミュニケーションを整えてみませんか?
腸と脳の相関関係について|科学的な定義と基本概念
消化器官と脳が影響を与え合うことを、脳腸相関と言います。脳から腸への単純な指令ではなく、お互いに情報交換が行われていることが知られています。
第二の脳と呼ばれる腸の独自の神経ネットワーク
腸管の内側には非常に多くの神経細胞が張り巡らされており、その数は数億個とも言われています。これによって、消化や栄養吸収、免疫反応などの働きを、脳の指令、いわゆる中枢神経の指示を介さずに、独立して制御が可能なのです。
この独立した伝達の仕組みを持っていることから、腸は「第二の脳」とも呼ばれています。
脳は全身を見る監督のような存在で、腸は脳に状況を報告しながら自立的に動ける立場にあります。腸が現場の判断で対応できる場合は、脳の指示を待たずに行動を起こします。ただし、現場で異常があれば腸が脳に報告し、脳は全体の調整を試みるのです。
脳と腸をつなぐ主要な経路
脳の指令なく働くことができる腸ですが、脳とも無線通信ができるような複数の経路でつながっています。
中でも、自律神経系、特に迷走神経は最も主要な接続路です。脳と腸の間ではこれを使って、互いに情報を伝達し合っています。
また、血液も腸で作られたメッセージを脳へ運ぶ配送ルートのようなものです。腸で作られたホルモンや神経伝達物質といった荷物は、血液に乗って脳に運ばれて処理され、感情・思考・睡眠などに影響します。
さらに、免疫系や内分泌系といった面では、腸内環境の変化や腸から出るホルモンの影響が、全身の健康に反映されます。
このように、腸で起こったことは、神経や血液・ホルモンといった経路を通じて、脳や体に伝わることになるのです。
脳腸相関の科学的メカニズム
前の章でお伝えしたとおり、脳と腸の関係は、神経系、免疫系、内分泌系において重要な役割を果たしています。
これらがどのようなメカニズムで脳と腸に影響を与えているのか、具体的に見てみましょう。
迷走神経による双方向の情報伝達
迷走神経は脳幹から始まり、首や胸部を経て腹部に至り、脳と腸を直接つなげる回路のようなものです。
この神経回路はインターネットのように、情報を双方向に伝え合っています。腸内の状態や栄養に関するシグナルは脳へ伝達され、脳からはそれに応じた消化機能の制御指令などが腸へ伝えられます。
私たちが空腹や満腹を感じることができたり、ストレスで胃腸の調子が悪くなったりすることにも、この迷走神経によるネットワーク伝達が関わっています。
自律神経系の役割
自律神経系は交感神経と副交感神経で構成されています。迷走神経は副交感神経として脳と腸をつなげていますが、交感神経も脳から脊髄、そして腸という経路でつながり、腸の働きをコントロールしています。
・交感神経が優位:消化が抑制される
・副交感神経が優位:消化が促進される
このように、交感神経と副交感神経がそれぞれの経路を通じて、状況に応じて腸の働きを調整しています。
自律神経のバランスが崩れると、腸の働きが乱れます。例えば、ストレスで交感神経が活発になると、副交感神経の働きが抑えられてしまいます。その結果、腸の動きが遅くなり、便秘や腹痛が起こりやすくなるのです。自律神経系がバランス良く働けば、腸の働きも自ずと整えられます。
免疫系と内分泌系の関与
腸には全身の約70%もの免疫細胞が存在しています。腸内の免疫細胞が産生するサイトカインなどの物質は、直接的に脳に届いたり、神経を介して間接的に信号を送ったりすることで、脳の働きに影響を及ぼしています。
また、腸は「最大の内分泌機関のひとつ」とも言われており、多くのホルモン様物質を産生しています。これらのホルモンは、腸と脳の間で相互に影響し合うことで、気分や睡眠、食欲、認知機能などに影響を与えています。
システム |
免疫系 |
内分泌系 |
---|---|---|
主な伝達物質 |
サイトカイン インターフェロン |
セロトニン |
脳への影響 |
気分 睡眠パターン |
ストレス反応 幸福感 |
腸への影響 |
腸管のバリア機能 |
腸内細菌のバランス |
この中でも、炎症性のサイトカインが過剰に産生されると、脳に炎症が起こり、神経細胞の機能が低下すると言われています。気分の落ち込みや不安が強くなり、うつ状態が生じるなど、精神的な健康への影響も少なくありません。
この他、GLP-1やCCKなど、満腹感や記憶に影響を与えているホルモンも存在します。
このように、脳と腸は複雑なメカニズムによって相互に作用しています。それによって、私たちの健康が維持されているのです。
腸内環境と腸内細菌が脳腸軸に関与
腸内には、約1,000種類以上、100兆個以上の細菌がいます。これらの微生物の中には、脳に直接作用して、認知能力や感情を調節するのに重要な役割を果たしているものも存在しています。
腸内微生物と神経伝達物質の産生
腸内細菌は、神経伝達物質の産生能力を持っています。ラクトバチルス属やビフィドバクテリウム属といった特定の菌は、セロトニンやGABA、ドーパミンなどの重要な物質を産生します。これらの物質は脳に到達し、気分や認知機能に影響を与えます。
例えば、ラクトバチルス属の細菌はGABAを産生し、不安を軽減しますし、ビフィドバクテリウム属の菌は、ストレスを調節するホルモンの産生に関与しています。
このように、腸内の微生物が脳の化学バランスを直接調整しているのです。
腸内環境の状態によって、神経伝達物質の量は変化します。健康的な腸内環境では、これらの生物が活発に働き、脳の状態をサポートしてくれるのです。
腸内環境の変化が認知機能に及ぼす作用
腸内環境の変化は、記憶力、学習能力、集中力などの認知能力にも影響を与えると言われています。
研究によると、腸内環境の悪化は炎症性物質の増加につながり、脳にダメージを与えます。ダメージを受けた脳は、認知能力の低下を招きやすくなります。
一方で、腸内環境が良好であれば、脳の神経回路の形成や強化が促されやすくなります。新しい情報の学習や記憶の形成が促進され、脳の機能を向上させることにもつながるでしょう。
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セロトニンなどの幸せホルモンと腸の関係
幸福感を左右する神経伝達物質の多くは、腸で作られます。
これらのホルモンは、脳の神経活動にどのように影響を与えているのでしょうか。
腸内で産生される重要な神経伝達物質
腸は、多様な神経伝達物質を産生する生化学工場としての機能を持っています。体内で産生される約9割が腸で作られるセロトニン(幸せホルモン)以外にも、ドーパミン、GABA、アセチルコリンなどが腸内で作られます。
神経伝達物質 |
脳での主な作用 |
不足時の症状 |
セロトニン |
幸福感の向上 感情を安定させる 睡眠・食欲・痛みの感受性を調節 |
抑うつ 不眠 |
ドーパミン |
やる気の向上 注意力や運動機能アップ |
無気力 注意力散漫 |
GABA |
リラックス効果 不安軽減 睡眠導入 |
不安 不眠 緊張状態 |
アセチルコリン |
記憶力向上 学習能力・注意力アップ |
記憶力・認知能力低下 注意力散漫 |
これらの物質は、前章でも記載した腸内細菌の働きによって合成され、オーケストラの楽団員のようにバランス良く調和して美しい心の音楽を奏でています。そのため、誰かが暴走したり足りなかったりすると、音が不協和音になり、不安やイライラなどの精神的な不調が起きてしまうのです。
ストレスホルモンと腸内環境の複雑な相互関係
ストレスによって分泌されるストレスホルモンも、脳や腸に大きく関わっています。
このストレスホルモンは、腸内細菌の働きによって合成された神経伝達物質である、オーケストラ楽団員たちの中に乱入する非常ベルのようなものです。乱入によって演奏どころではなくなったオーケストラは、完全に混乱状態に陥ります。演奏をやめたり、その場を離れてしまったりと、バランスが崩れてしまいます。
このように、ストレスによって副腎からコルチゾールなどのストレスホルモンが分泌され続けると、腸内細菌のバランスが崩れます。その結果、体や心にとって有益な細菌が減少してしまうことがあるのです。
また、この関係は逆方向にも働きます。腸内環境が悪化すると、炎症性物質が増加して脳に刺激を与え、ストレスホルモンの過剰分泌を引き起こすのです。この悪循環が続くと、慢性的に神経伝達物質のバランスが崩れることになり、ストレス状態から抜け出せなくなってしまう可能性が高まります。
このように、腸と幸せホルモンやストレスホルモンは密接に関わりあって、私たちの体や心の状態に影響を及ぼしているのです。
脳腸相関が健康に与える具体的な影響
腸と脳がどのように繋がり、どのようなメカニズムで影響を与え合っているのかが分かったところで、実際に脳腸相関が私たちの心身の健康に与える影響とはどんなものなのでしょうか。具体的な疾患や症状についていくつか紹介します。
過敏性腸症候群とストレスの関連性
過敏性腸症候群(IBS)は、脳と腸が強く結びついていることを示す代表的な疾患のひとつで、ストレスによって腸の問題が引き起こされるとされています。
ストレスがかかることで、脳からの信号が神経ネットワークによって腸に伝わり、腸の運動や感覚が過敏になります。また、ストレスホルモンの分泌によって、腸の血流や運動が乱れ、腸粘膜に炎症が生じやすくなります。さらに、腸内細菌のバランスが乱れ、腸内のガスが増加、腸粘膜が刺激されます。
その結果、腹痛や腹部膨満感、便秘や下痢などが慢性的、そして再発的に引き起こされます。この時、食べ物による不調や腸の構造的に異常が見られないのがポイントです。
仕事のプレッシャーや人間関係の問題が増すことで、症状が悪化することが多いです。加えて、ストレスによって腸の状態が悪化することで、不安や緊張が強まり、さらにストレスが増加するといった、悪循環に陥る患者さんも少なくありません。
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不安やうつ状態と消化器症状
心の状態と消化管の健康も密接な関わりを持っています。脳と腸は迷走神経や自律神経系を介して常に情報のやりとりを繰り返しているため、不安やうつ状態になると、消化器にも変調が起きるのです。
ストレスや不安、うつ状態では、交感神経が優位になり、副交感神経が抑制されます。その結果、胃腸の血流が低下したり、消化液の分泌が減少したり、腸の蠕動運動が不安定になりやすくなります。
また、うつ状態では幸せホルモンのセロトニンが不足します。セロトニンには気分の安定と同時に腸の動きを調整する働きがあるため、消化機能の低下を招きやすくなります。
便秘や腹痛の心理的要因
日常的な便秘や腹痛が心理的な要因によるものである場合も少なくありません。
慢性的にストレスを感じていると、自律神経のバランスが崩れます。その結果、腸の蠕動運動が低下し、便秘や腹部の不快感が生じやすくなるのです。
ストレスなどの心理的なものが原因で消化器症状が生じている場合は、日常的なストレス管理や、心理的なケアが大変重要だと言えるでしょう。
症状 |
心理的要因 |
身体的な影響 |
ケア方法 |
過敏性腸症候群 |
慢性ストレス 不安 |
腸の運動異常 腹痛 |
ストレス管理 食事療法 |
機能性胃腸症 |
うつ状態 緊張 |
胃酸の分泌異常 消化不良 |
心理療法 生活習慣の改善 |
慢性便秘 |
精神的なプレッシャー |
腸の蠕動運動低下 |
リラクゼーション 運動療法 |
機能性腹痛 |
社会的なストレス |
内臓の知覚過敏 |
認知行動療法 運動療法 |
健康維持のためには、脳と腸の関係を理解したうえで、身体と心の両面からのアプローチが必要であると考えられます。
【脳腸相関】腸と脳の相関関係とは?腸が第二の脳と呼ばれる理由や健康に与える影響 のまとめ
腸と脳は密接に繋がっており、脳腸相関として科学的に説明されています。
「第2の脳」と呼ばれる腸は、回路のように脳と常に通信しています。腸内環境が悪いとこの通信がうまくいかず、不安やイライラ、腹痛などのエラーメッセージばかりが出てしまうのです。
腸内環境が整えば、通信がスムーズに進み、良い情報が行き交いやすくなり、心身の健康に良い影響をもたらします。逆に、心の状態を整えれば、腸の働きを良好に保ちやすくなることが期待できるでしょう。
心と体の健康を守る第一歩として、腸と脳の相関関係を正しく知って、日々の食生活や生活習慣を見直してみましょう。ストレスため込まないライフスタイルを心がけ、腸内環境に配慮した生活習慣を送ることが、心身ともに健康的に過ごすための第一歩になるでしょう。